質問:役員や従業員が出張に出る際、交通費以外に手当を出したいです。金額はどうしたらよいですか?
役員や従業員が出張するとき、これまでは実費の交通費のみ出していました。
これから日当を支給したいと考えています。
金額はどう決めたらよいですか?
日当が税務署から認められない場合もありますか?
答え:旅費規程を整備すること、高すぎない金額で設定、この2点が重要です。
日当の金額に法律の決まりはありません。会社の裁量で自由に決められます。
ただし、金額が高すぎると、税務署から「これ、給料じゃないですか?」と言われる
可能性がでてきます。「通常必要と認められるの金額」でなくてはなりません。
また、出張旅費規程を作成して「出張の定義」「日当はいくらか?」
といったルールをしっかり決めておきましょう。
「出張の精算って、ややこしい…」
「日当ってどのくらい出せばいいの?」
「派遣社員の旅費はどう処理すればいいの?」
そんな疑問を抱えている方、多いのではないでしょうか。一緒に整理していきましょう。
出張旅費と日当の違いは?
そもそも出張旅費、日当とは?基本から理解しましょう。
出張でかかる費用をひっくるめて「出張費」と呼んだりしますが、大きく2つに分かれます。
○出張費
これは、電車代や飛行機代、宿泊代など、出張で実際に使った費用のこと。
レシートや領収書が証拠となります。
○日当
これは、出張中の食事代や通信費など、「なんとなくかかる諸費用」を補填するために会社が支給する手当です。「出張、お疲れさま」という意味も込められた、いわば”労いの支給”みたいなものです。なんとなくかかる費用に対して払うものなので、領収書等を出してもらって金額を確かめるものではなく、多くの場合は、1日あたり〇〇円と、一律の金額で支給されます。その金額は、規定で定めておくことが大事です。
日当を支給する目的って何?
法律上、会社は従業員に日当を支給する義務はありませんが、多くの会社が支給しています。そこにはちゃんと理由があります。
- 従業員のやる気アップ
- 外食費用の補填
- 残業代の一部
- 拘束時間への補償
つまり、従業員に「出張、頑張って行ってきて!」と気持ちよく送り出すための制度なんですね。
日当のメリット・デメリット
○会社にとってのメリット
節税効果→日当は基本的に非課税なので、旅費交通費として経費計上でき法人税が節約できる
従業員のモチベーションアップ
○従業員のメリット
源泉徴収されない→手取りがアップ
見えない出費の補填→出張をすると、泊費以外にも細々とお金がかかるものです。コンビニでお茶を買ったり、お土産を買ったり、通話やネット代がかかったり…。そんな出費を補填できます。
○会社のデメリット
支出が増える→当たり前ですが、日当を支給すると会社の支出は増えます。営業マンが多い会社は要注意です。
経理の仕事が増える→役職によって金額が違ったり、出張先によって変わったり…。計算が複雑になりがちです。
規定の整備が必要→出張旅費規程を作ったり、就業規則を変更したり、最初の準備が大変です。
日当の相場はどのくらい?
気になる相場ですが、一般的には
• 国内出張:2,000円/日(別途宿泊費5,000円〜10,000円)
• 海外出張:5,000円/日
これは目安ですので、会社の規模、業界、役職によって変わります。
大手企業の部長クラスなら1万円、中小企業の一般社員なら2,000円という感じで、「その会社らしい」金額設定をするのがポイントです。
ケース別日当の設定方法
- 外食費用を補填したい場合
ホテルの素泊まりプランを使うことが多い会社なら、食事代の補填が主目的になります。
例:「宿泊を伴う出張は1日3,000円、日帰りは1,000円」 - 残業代の一部として考える場合
出張先での労働時間が把握しにくい場合は、「事業場外みなし労働時間制」を使って、一定時間働いたものとみなすことができます。この場合の日当は、その時間外分への対価という意味合いが強くなります。適切な旅費規程と業務実態があれば、給与とはみなされず非課税扱いが可能です。 - 拘束時間への補償として考える場合
「新幹線で3時間移動」「飛行機の待ち時間2時間」など、移動時間も会社のための時間です。その分の補償として日当を設定するケースです。 - 想定外の出費を補填したい場合
「台風で新幹線が欠航……」そんな予期せぬ出費に対応できるよう、固定額での支給がおすすめです。
例:「出張1回につき5,000円」
日当導入の手順
ステップ1:目的を明確にする
まず「なぜ日当を出すのか」を決めましょう。目的が曖昧だと、金額設定で迷走します。
ステップ2:適用範囲を決める
• 正社員だけ?パート・アルバイトも含める?
• 派遣社員はどうする?
ステップ3:出張の定義を決める
「片道50km以上」「宿泊を伴うもの」など、具体的な基準を設けましょう。
ステップ4:費用項目を設定する
交通費、宿泊費、日当…それぞれをどう扱うか決めます。
ステップ5:就業規則に組み込む
制度として機能させるには、就業規則への記載が必須です。
ステップ6:出張旅費規程を作成する
細かいルールは別途『出張旅費規程』として整備しましょう。
税務リスクを避けよう
○適度な金額にしよう
日当は基本的に所得税がかかりませんが、「常識的な範囲」を超えると課税対象になってしまいます。
NG例:一般社員の国内出張で日当2万円 → 税務調査で「給与」として認定される可能性大
OK例:一般社員の国内出張で日当3,000円 → 社会通念上妥当な範囲
税務リスクを考えると常識的な金額に抑えましょう。
○規定なしの支給はNG
「今回だけ特別に…」という場当たり的な支給は危険です。必ず規定を作って、平等に適用しましょう。
○出張の記録を残そう!
日当規定で定めることに加えて重要なのは、「業務実態の証明」。
記録がないとカラ出張を疑われ否認リスクありなので、記録を残しましょう。
経理処理のポイント
日当の勘定科目は「旅費交通費」を使うのが基本です。ただし、出張先での会食費は「会議費」や「交際費」として別途処理が必要です。
《注意したい処理》
• 前払いした場合の精算処理
• 海外出張の場合の円換算
消費税の扱い:インボイス制度も踏まえて
○基本的な考え方
国内出張で妥当な金額の日当 → 課税仕入れ対象(消費税の計算で控除OK)
海外出張の日当 → 原則として課税仕入れ対象外(消費税の計算で控除NG)
高額すぎる日当 → 課税仕入れ対象外(消費税の計算で控除NG)
○インボイス制度での特例
従業員への出張旅費等は「出張旅費等特例」により、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。インボイスは不要なので安心してください。
○従業員と派遣社員の旅費の違い
従業員の場合→自社の旅費規程に基づいて支給すればOK。特に複雑な処理はありません。
派遣社員の場合→支払い方法によって税務上の取り扱いが変わります。
パターン1:派遣元企業に支払う場合
• 派遣元からインボイスをもらって保存が必要
• 「人材派遣の対価」として処理
パターン2:派遣元企業を通じて派遣社員に支払う場合
• 帳簿のみの保存でOK(出張旅費等特例が使える)
• 派遣元は「立替払い」として処理
契約書をよく確認して、どちらのパターンかを明確にしておきましょう。
まとめ:日当制度を上手に活用しよう
ポイントをおさらいすると、
- 目的を明確にして制度を作る
- 常識的に考えて妥当な金額を設定
- 規則規程(就業規則、出張旅費規程)の整備は必須
- 派遣社員の処理は要注意
出張旅費や日当のルールは、一見難しそうに見えますが、実は「旅費規程というルールブックを作り、そのルールに従って正しく処理する」というシンプルなものです。最初の制度設計は少し大変ですが、一度整えてしまえば、節税や従業員のモチベーションアップを実現できます。ぜひ前向きに検討してみてください。
実務よもや話
そもそも出張の定義はどうしたらよいか、そこの点を相談されることが多いです。
本文にも書きましたが、どこから出張とするのか、いくらにしたら良いのか、は法律で定められているわけではないので、難しいですよね。
一般的には、距離・移動時間・宿泊の有無で決めることが多いです。宿泊があれば、自動的に出張と定めることに異論は(ほぼ)ないでしょう。難しいのが、日帰り出張。これは移動距離30キロ以上、50キロ以上といったあたりでしょうか。あとは、片道90分以上、120分以上、など。
もうひとつ大事なのは、公平な基準を定めるということ。
不満が出やすい日当の定め方は、つぎのとおりです。
1、支給基準が曖昧・不透明
・「誰がもらえて、誰がもらえないのか」が明確でない
・距離や拘束時間の基準が曖昧、慣習で運用されている
⇒「あの人はもらえてるのに、私はなぜもらえないの?」という疑念が生まれる
2、業務内容に対する補償感が低い
・長時間拘束、遠方移動でも日当が一律または低額
・「持ち出し感」が強くなる(昼食代・雑費など)
⇒「業務負担に見合っていない」と感じやすい
3、職種・役職による差が説明されていない
・管理職は日当なし、一般職はあり。などの差があるが理由が不明
⇒「役職で差をつけるなら理由を明確に説明してほしい」という声が出る
4、宿泊の有無だけで支給額が大きく変わる
・宿泊あり2,000円、日帰り500円など、差が大きすぎる
⇒「宿泊の有無より拘束時間や移動距離の方が負担なのに」と不満に
※本記事は2025年8月時点の法令・制度に基づいて執筆しています。内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の事情に応じた法的助言を行うものではありません。万が一、記事の内容をもとに行動された結果として損害などが生じた場合でも、筆者としては責任を負いかねますこと、あらかじめご了承ください。