質問:農業を営んでいます。決算で棚卸のやり方を教えてください!
農業を営んでいます。決算を迎えるのですが、棚卸のしかたがわかりません。
商業簿記は学んだのですが、違いはありますか?
答え:農業と商工業で棚卸資産の定義は同じですが、扱う対象・評価方法・勘定科目などに違いがあります。
結論から言うと、棚卸資産の基本的な定義は共通しています。
しかし、農業と商工業では「対象資産の種類」「勘定科目」「評価方法」等に違いがあります。
個人と法人で評価方法が異なるものがある、という点も大きな違いです。
「商工業の経理経験はあるけど、農業はまるで別世界に感じる」
その気持ち、わかります。今回は、その中でも『棚卸の方法』にスポットを当てて解説します。
基本のキ:棚卸とは?
正確な期間利益を計算するために、まだ売れていない商品や、まだ使っていない材料の価値を把握する大切な作業を、棚卸と言います。商工業でも出てきますが、農業ももちろん棚卸しがあります。期末にまだ売れていない農産物や、使っていない肥料・飼料などを確認し、その価値を売上原価や製造原価から差し引く手続きをします。商工業とは一味違う、農業独自のルールもあります。
農業ならではの「棚卸し物」リスト
農業では、どんなものが「棚卸資産」になるのでしょうか?普通の商工業とはちょっと違う勘定科目の顔ぶれを見てみましょう。
農産物等:収穫済みで未販売の農産物=商業簿記の製品に相当
未収穫農産物等:栽培中の作物=商業簿記の仕掛品に相当
販売用動物:肥育中の家畜で販売目的のもの
※繁殖用の親牛や販売する果実をとるための果樹などは「固定資産」という別の扱いになります。
個人事業主 vs. 農業法人:評価方法の大きな違い!
さて、ここが農業の棚卸しの、もっともドラマチックなポイントかもしれません。
個人で農業を営んでいるか、会社として農業をしているかで、棚卸資産の「値踏み」の仕方がガラッと変わるんです。
▶個人農業者
年末に収穫済みで未販売の農産物は、「時価」で評価され、総収入金額に算入されます。
つまり、まだ売れていなくても、収穫した時点で「儲け」とみなされるんです。収穫基準が適用される個人農業者については、期末未販売の農産物棚卸高は、収穫時の時価で評価されて総収入金額に算入され、反対に期首農産物棚卸高は総収入金額から控除されます。一般的なビジネスでは、まだ売れていないモノは「原価」で評価されるのことが多いので、個人の農家さんにとって、一番驚きなのがこれかもしれません。
▶農業法人
収穫済みで未販売の農産物は「製品」として扱い、原則「原価(作るのにかかった費用)」で評価され、製造原価から控除されます。法人の場合は、商工業と同様の会計処理と言えるでしょう。ただし、法人でも、場合によっては原価計算ではなく、時価で評価することもある、という柔軟な面もあります(後述します)。よりビジネスライクな会計処理と言えるでしょう。
時価評価の方法(個人の農家):農産物を出荷する際に得られる、手取りベースの価格のこと
個人事業主が時価評価を行う際の時価は収穫した時の「生産者販売価格(庭先裸価格)」のことで、農家が収穫した農産物を出荷する際に得られる、手取りベースの価格のことです。これを、確定申告や棚卸資産の評価において、収穫物の「時価」として使います。
▶生産者販売価格(庭先裸価格)の定義
・収穫時点での販売可能価格
・出荷手数料・運賃・包装費などを除いた、農家の純粋な手取り額
▶農産物の時価評価ステップ
① 実地棚卸を行う(12月31日時点)
倉庫や冷蔵庫などに保管されている農産物の種類・数量(kgや本数など)を確認
収穫済みで未販売のものが対象
② 単価(庭先裸価格)を調べる
農協の出荷価格や市場の平均価格を参考にする
出荷手数料・運賃・包装費などを除いた「生産者が手にする純粋な価格」
例:キャベツ1玉の市場価格が150円 → 手数料20円・運賃10円を除く → 庭先裸価格は120円
③ 棚卸評価額を計算
数量 × 単価(庭先裸価格)= 棚卸資産額
例:キャベツ100玉 × 120円 = 12,000円
④ 棚卸表に記載(=合計金額が「期末棚卸高」として確定申告書に記載されます)
▶作物別の評価のポイント
・野菜(キャベツ・白菜など):収穫後すぐに販売されるため、収穫時の平均販売価格を使う
・果物(みかん・りんごなど):等級によって価格が異なるため、出荷実績に基づく平均単価を使う
・花き(切り花など):市場価格の変動が大きいため、直近の販売価格を参考にする
・加工用作物(大豆・とうもろこしなど):加工業者への販売価格を基準にするが、契約単価がある場合はそれを使用する
▶注意点
・家事消費・贈与した分も時価で収入計上する必要あり
・収穫から販売までの期間が短い野菜などは棚卸省略可能(例:ほうれん草、レタスなど)
▶補足:未収穫農産物の評価
収穫前の作物(例:越冬野菜や果樹)は、育成にかかった費用(肥料・農薬・種苗費など)を合計して評価します。ただし、毎年同じ規模で作付けしている場合は棚卸を省略してもOKです。
▶参考:法人でも時価評価が必要になるケース(農業法人)
農業法人でも、以下のような状況では棚卸資産を時価で評価しなければなりません。
・災害によって農産物が損傷した場合
・著しく陳腐化した(売れ残り・流行遅れなど)
・品質劣化や腐敗によって販売価値が下がった
・特別な事情により販売困難になった
このような場合、棚卸の金額(帳簿価額)よりも時価が著しく低いときは、貸借対照表上で評価損を計上して時価評価をする必要があります。
▶データの入手方法
生産者販売価格は、以下のような情報源から調べることができます:
• 農協(JA)の出荷実績データ
• 市場の月別平均価格
• 農業物価統計調査(農林水産省)
実務よもや話
税務のお話しではありませんが、農業のお話しを。
稲刈りがもうすぐです。今年は、とにかく水不足との戦いでした。雨が降らない。
その危機をなんとか乗り切って、穂をつけるところまでいきました。
この時期は、土日を過ぎて週明けになると、稲刈りが終わった田んぼが増えていて、
景色が変わっていきます。
近所のお宅も、次々と稲刈りを進めています。
私が携わっている田んぼは、もう少し。
23枚田んぼがあるので順々に刈っていきます。
コンバインは3台。1枚は大人数で手狩りをしてはぜ干しをします。
刈ってみて、果たして反当たり何俵くらいとれるか。
みんなと作ったお米が、一年分の主食になります。どきどきしますね。
※本記事は2025年9月時点の法令・制度に基づいて執筆しています。内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の事情に応じた法的助言を行うものではありません。万が一、記事の内容をもとに行動された結果として損害などが生じた場合でも、筆者としては責任を負いかねますこと、あらかじめご了承ください。