【Q&A】事業を相続した場合のインボイス登録について

個人事業主 死亡 相続 インボイス 質問BOX

質問:親が亡くなって事業を引き継いだら、インボイス番号はどうなる?

  親が亡くなり、営んでいた事業を引き継ぎました。インボイス番号はどうしたらよいですか?

答え:引き継いだ方自身で、必ず登録申請が必要です(猶予期間あり)

  親の事業を相続した方からの質問です。ポイントは2点。
   ・必ず、相続した方自身での登録申請が必要
   ・登録まで時間がかかるので、一定期間は亡くなった方のインボイス番号が使える
  では、必要な手続き、条件、猶予期間について解説していきます。

結論

 インボイスを発行できる事業者だった故人の事業を引き継いだ場合、
 必ず引き継いだ方がご自身で登録申請することが必要です。

 しかし、亡くなった翌日に即登録完了、ということは無理です。
 そこで、事業の継続を滞りなく行うために、特別な期間が設けられています。
 それが「みなし登録期間」です。
 一定期間は「みなし登録期間」として亡くなった方の番号でインボイス発行が認められます

そもそも、インボイス制度って何?なぜ登録が必要?

 インボイスについては知っているよ、という方は次の項から読み進めてください。

 2023年10月1日から始まった「インボイス制度」。消費税の計算に関わる新しい仕組みです。
 この制度で、事業者が「適格請求書=インボイス」と呼ばれる請求書を発行できるようになるには、事前に税務署に申請して「適格請求書発行事業者(インボイスを発行できる事業者)」として登録する必要があります。

 このインボイスを発行できる事業者から仕入れを行うと、その仕入れにかかった消費税を計算上差し引くことができるため、多くの事業者にとって、取引相手がインボイスを発行できるかどうかが重要になります。

「みなし登録期間」とは?

 インボイス発行事業者だった方が亡くなって、その事業を相続する方のために設けられた、
 いわば「猶予期間」のようなものです。

 Q:いつから始まる?
  故人が亡くなった日の翌日から自動的にスタートします。
 Q:どれくらい続く?
  最長で4ヶ月間です。
  または、相続人ご自身がインボイス発行事業者として登録を完了した日。
  こののいずれか早い方で期間が区切られます。
 Q:この期間中のインボイス発行はどうなる?
  故人の登録番号を使ってインボイスを発行できる(とみなされ)ます。
  これによって、事業が中断することなく、取引先もこれまで通り仕入れで差引くことができます。

相続人がすべきこと:スムーズな事業継続のために

 故人の事業を引き継いだ相続人の方は、この「みなし登録期間」中にご自身でインボイス発行事業者の登録申請を行う必要があります

 Q:申請が遅れるとどうなる?
  「みなし登録期間」が終わるまでに登録申請ができなかった場合、
  登録が完了するまでの間は、インボイスを発行できない期間が生じてしまいます。
  取引先に迷惑をかけたり、自身の事業運営に支障をきたす可能性があるので注意が必要です。

 Q:スムーズに引き継ぐには?
  「みなし登録期間」中に登録申請を行うことです。
  そうすれば登録が途切れることなく、円滑にインボイスの発行を続けることができます。

 Q:「みなし登録期間」内に申請はしたけれど、登録通知が来ない場合は?
  登録通知が届くまでの間、みなし登録期間が延長されるという特例があります。
  申請さえ期間内に済ませていれば、通知が遅れてもインボイス発行を継続できるという救済措置です。 
   《具体例》
   相続日:4月1日
   みなし登録期間:4月2日〜8月1日
   登録申請日:7月15日(期間内)
   登録通知日:8月20日(期間後)
    ⇒8月20日までみなし登録期間が延長され、被相続人の番号でインボイス発行が可能

相続開始後(亡くなってから)の手続きの流れ(まとめ)

 ①「適格請求書発行事業者の死亡届出書」の提出
  ⇒亡くなった方がインボイス登録していた場合、相続人が速やかに税務署へ死亡届出書を提出します。  
   提出先は、亡くなった方の納税地を管轄するインボイス登録センターです。

 ②「みなし登録期間」の開始
  ⇒死亡の翌日から4か月間、相続人は被相続人のインボイス番号を使ってインボイスを発行可能です。

 ③引き継いだ方(相続人)自身の「インボイス登録申請書」の提出(みなし登録期間中)
  ⇒相続人が事業を継続する場合、自身の名義でインボイス登録申請書を提出します。
   申請はe-Taxまたは書面で可能です。

 ④インボイス登録完了通知の受領
  ⇒通常、申請から2週間〜1か月程度で登録通知が届きます。
   登録が完了すると、相続人自身のインボイス番号での発行が可能になります。

 ⑤「みなし登録期間」終了

実務よもや話

 相続が開始(亡くなる)と、ご家族はさまざまな手続きに追われます。
 亡くなった方が事業を行っていた場合は、それに付随して税務関連の手続きも必要になります。
 相続人の方が自ら手続きをしている場合は良いですが、そこまで手が回らないことも多々あるかと。
 どんな手続きがあるのかわからなくとも、お付き合いある税理士さんがいる場合は亡くなったらなるべくはやめに連絡しておきましょう。個人事業主で顧問税理士がいないという場合は、相続(による廃業や引継ぎ)に関する手続きのみ税理士に依頼するか、税務署で相談することをおすすめします。
 ご家族でないと手続できないことはたくさんあるので、専門家(司法書士、行政書士、税理士)が代理でできる手続きは利用したら安心かと思います。

 個人事業主の方が亡くなった時に必要となる税務関連の主な手続きはつぎのとおりです。
 (事業の形態、承継するかどうか、によって手続きの種類も変わってきます)

被相続人(個人事業主)に関する主な手続き
手続き内容提出先期限の目安
死亡届の提出市区町村役場死亡を知った日から7日以内
廃業届(個人事業の廃業等届出書)税務署死亡日から1ヶ月以内
事業廃止届(消費税関係)税務署できるだけ速やかに
給与支払事務所等の廃止届出書税務署死亡日から1ヶ月以内(従業員がいた場合)
適格請求書発行事業者の死亡届出書税務署できるだけ速やかに
準確定申告税務署相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内
青色申告の取りやめ届出書税務署通常は不要(死亡による廃業のため)
相続人に関する主な手続き
手続き内容提出先期限の目安
相続放棄・限定承認の申述家庭裁判所相続開始を知った日から3ヶ月以内
個人事業の開業届(事業承継する場合)税務署死亡日から1ヶ月以内
青色申告承認申請書(青色申告を希望する場合)税務署死亡日から4ヶ月以内(時期により異なる)
相続人のインボイス登録申請書(事業承継する場合)税務署相続開始から4ヶ月以内が目安
給与支払事務所等の開設届出書税務署開業と同時に提出(従業員を雇う場合)
相続税の申告・納付税務署死亡日の翌日から10ヶ月以内
不動産などの名義変更(相続登記)法務局相続を知った日から3年以内(義務化)

※本記事は2025年6月時点の法令・制度に基づいて執筆しています。内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の事情に応じた法的助言を行うものではありません。万が一、記事の内容をもとに行動された結果として損害などが生じた場合でも、筆者としては責任を負いかねますこと、あらかじめご了承ください。

質問コーナーつきましては、「わかりやすさ」を第一に考え、次のことを心がけております。

専門用語をなるべく使わない
 ➡正しいけれど意味のわかりにくい言葉(税法用語など)を使わず、簡単な表現に言い換えてお伝  
  えします。そのため、専門家による専門家のための実務書とは表現が違うこともままあります
  
“超”がつくほど例外的なパターンまではあえて言及しない
 ➡あらゆるパターンを網羅してお答えしようとすると、回答が膨大な量になる恐れがあります。
  情報の多さに「で、結局答えは??」とゴールが見えなくなってしまわぬよう、まずは基本的なこと
  をシンプルにお伝えします。

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