質問:災害で被害を受けたときの雑損控除、よくわからない……
災害によって被害を受けたときに使える雑損控除。詳しく教えてください!
答え:生活に必要な資産に被害を受けた場合に、税金の計算から一定の金額を引けます。
雑損控除とは、災害・盗難・横領によって生活に必要な資産に損害を受けた際、
その損失の一部を所得から差し引いて税負担を軽くできる制度です。
予期せぬ経済的なダメージを税金の面から救済するための仕組みです。
そもそも「雑損控除」って何?
地震や火事、あるいは盗難……人生にはまさかの災難が降りかかることがあります。
そんな時、税金の面で助けてくれる味方が雑損控除です。
▶対象になる「要件」
何でもかんでも損したから控除できるわけではありません。その要件を見ていきましょう。
① 原因の要件(何が起きた?)
控除が認められるのは、以下の5つの原因に限られます。
- 自然災害:震災、風水害、雪害、落雷など
- 人為的災害:火災、爆発など
- 生物による災害:シロアリなどの害虫による異常な損害
- 盗難:泥棒に入られた、など
- 横領:信頼していた人に財産を使い込まれた、など
【注意!】詐欺や恐喝は対象外
振り込め詐欺や投資詐欺で失ったお金は、原則として雑損控除の対象になりません。
税法では「自分の意思で渡した(自発的支払い)」とみなされてしまうからです。
キャッシュカードをすり替えられたような「盗難」とみなされるケースは対象になる可能性があります。
② 資産の要件(何が壊れた?)
生活に通常必要な資産であることが条件です。
OKなもの(生活に通常必要な資産)
・自宅(マイホーム)、家具、家電、衣類
・通勤や通学に使っている車 など
NGなもの(生活に必ずしも必要ない資産)
・別荘、ゴルフ会員権
・1個(1組)30万円を超える貴金属、骨董品、書画
・事業用の資産(必要経費 or 災害損失として、事業所得の計算で経費処理)
③ 所有者の要件(誰の持ち物?)
・納税者本人 または
・納税者と生計を一にする親族で、その年の合計所得金額が一定以下(58万円以下)の人
計算方法:いくら税金が安くなる?
雑損控除の額は、次の2つのうち金額が多い方になります。
- (損害金額 + 災害関連支出 - 保険金等) - (総所得金額等 × 10%)
- (災害関連支出 - 保険金等) - 5万円
※ざっくり言うと
・損害金額=壊れたモノそのものの価値
・災害関連支出=片付け・修理にあとからかかったお金
▶「損害金額」とは?:失ったモノの価値
損害金額とは、災害や盗難に遭う直前におけるその資産の時価(市場価値)を指します。
《損害金額の計算方法》
取得価額(買った時の値段)がわかるかどうかで、合理的な計算方法が用意されています。
• 購入額がわかる場合
(取得価額 - 減価償却費累積額) × 被害割合
• 購入額が不明な場合(住宅)
{(1㎡あたりの工事費用 × 総床面積) - 減価償却費} × 被害割合
• 購入額が不明な場合(家財)
家族構成別家庭用財産評価額(国税庁公表の「標準的な評価額表」に基づく) × 被害割合
※被害割合は、罹災証明書の判定や修理見積等をもとに合理的に算定します。
▶「災害等関連支出」とは?:後片付けや修復にかかった費用
災害によって壊れたものを壊したり、取り除いたりするために支払った「やむを得ない支出」のことです。モノの価値そのものではなく、「その後にかかったお金」を指します。
《具体例》
• 壊れた家屋や家財の取壊し・撤去費用
• 土砂やガレキの除去費用
• 資産の原状回復のための修繕費
• 盗難・横領された資産の原状回復費(鍵の交換代など)注:グレードアップ改修はNG
控除金額シミュレーション
- 所得300万円の人が、
- 空き巣に遭って100万円相当の資産を盗まれ、
- 保険金で40万円戻ってきて、
- 鍵の交換など(関連支出)に30万円かかった場合
計算式1:(100万 + 30万 – 40万) – (300万 × 10%) = 60万円
計算式2:(30万 – 40万) – 5万 = マイナス(0円)
→この場合、多い方の60万円が所得から控除されます。
必要な資料と手続き
確定申告では、以下の準備が必要です。
《必要な書類》
・被害額の証明書類
火災なら消防署、盗難なら警察署の証明書。
自然災害なら市区町村が発行する「罹災(りさい)証明書」。
・領収書
片付けや修繕にかかった費用のもの(家の修理代、取り壊し費用、シロアリ駆除費用など)。
・保険金の決定通知書:保険会社から届く書類
2026年申告での重要な変更点
2025年分(2026年申告)から、扶養親族などの所得要件が緩和されます。これまでは所得48万円以下が対象でしたが、税制改正により「所得58万円以下」の親族の損害も合算できるようになります。
確定申告書の記載箇所
雑損控除は「第一表」と「第二表」の2か所に記載する必要があります。
【第一表】控除額の記入
左側の「所得から差し引かれる金額」欄:
「雑損控除」の項目(通常は⑪番付近)に、計算して算出した最終的な控除額を記入します 。
【第二表】被害状況の詳細記入
右下の「雑損控除に関する事項」欄(通常26番や27番): 以下の詳細を記入します 。
- 損害の原因:「火災」「盗難」「台風」など、損害を受けた理由
- 損害年月日:被害に遭った日付
- 損害を受けた資産の種類など:「住宅」「家財」「自動車」など
- 損害金額:被害を受けた資産の時価に基づいた損害額
- 保険金などで補填される金額:受け取った(または受け取る予定の)保険金や損害賠償金の合計額
- 差引損失額のうち災害関連支出の金額:家の取り壊し費用、土砂の除去費用、シロアリ駆除費用など、災害に関連して支出した具体的な金額
※e-Taxの場合は画面の案内に従って入力すれば、第二表相当の内容も自動作成されます。
注意点
▶期限
原則として申告期間(2月16日〜3月15日)に行いますが、還付申告であれば過去5年前までさかのぼって申告することも可能です 。
▶年末調整で不可
会社員の方でも、会社では手続きできません。自分で確定申告をする必要があります。
▶間違いやすい点
「保険金をもらったから申告できない」⇒保険金を差し引いても損失が残る場合は申告可能!
「シロアリはただの虫だからダメだろう」⇒害虫被害も対象です!
知っておきたい応用テクニック
▶控除しきれない分は「3年越し」で使える
被害が大きすぎて、その年の所得よりも控除額の方が大きくなってしまった場合、翌年以降の3年間(大規模災害なら5年間)にわたって、繰り越して税金を安くできます 。
「災害減免法」との比較
災害(盗難は含まず)の場合、「雑損控除」の他に「災害減免法による軽減免除」という制度も選べます。どちらが有利かは被害状況によりますので、シミュレーションが大切です。まず、どちらの制度が使える状態かを確認しましょう。災害減免法は要件が厳しいのが特徴です。
| 比較項目 | 雑損控除 | 災害減免法 |
| 損害の原因 | 震災、火災、盗難、横領、害虫被害など | 災害(震災、火災、風水害など)のみ |
| 所得制限 | なし | 1,000万円以下 |
| 損害の程度 | 制限なし(一部損壊など軽微でも可) | 時価の2分の1以上の損害(住宅・家財) |
| 対象資産 | 生活に通常必要な資産 | 住宅または家財のみ |
▶「節税効果」の現れ方の違い
計算の仕組みが異なるため、戻ってくる金額に差が出ます。
- 雑損控除(所得控除)
損害額を「所得」から差し引きます。そのため、所得税だけでなく、翌年の住民税や国民健康保険料なども安くなる可能性があります。 - 災害減免法(税額控除)
計算された「税金そのもの」を直接減らしたり免除したりします。- 所得500万円以下:所得税の全額免除
- 所得500万円超 750万円以下:所得税の2分の1を軽減
- 所得750万円超 1,000万円以下:所得税の4分の1を軽減
▶ 「繰り越し」ができるかどうか(最重要!)
雑損控除は「繰り越し」ができる
その年の所得から引ききれなかった損失額を、翌年以降3年間(特定非常災害は5年間)にわたって繰り越して、将来の税金を安くできます。
災害減免法は「その年限り」
被害を受けた年の所得税だけに適用され、翌年以降への繰り越しはできません。
▶【結論】どちらを選ぶべき?
「雑損控除」を選んだほうが得な場合
- 損害額が非常に大きいとき(今年の年収を上回るような損失があり、来年以降も税金を減らしたい場合)。
- 所得が1,000万円を超えているとき。
- 損害の原因が盗難や横領、シロアリ被害などのとき。
- 損害が家の時価の2分の1に満たないとき。
「災害減免法」を選んだほうが得な場合
- 所得が500万円以下で、住宅や家財に時価の半分以上の大きな損害を受けたとき(その年の所得税が全額免除されるため、雑損控除より有利になるケースが多いです)。
- 損害額がそれほど大きくなく、その年の所得から全額引ききれる範囲のとき。
両方の計算式でシミュレーションを行い、「今年の減税額」だけでなく「将来3〜5年間の減税額」も視野に入れて比較することが大切です。
住民税や国保、国民年金保険料への影響(減免や軽減)
1. 個人住民税への影響:控除と減免の「ダブル適用」も
住民税についても、所得税と同様に雑損控除を適用して税額を下げることができます。
所得税で雑損控除を使うと、その情報が自治体に送られ、翌年度の住民税計算に反映されます。
2.国民健康保険料(税)の減免
国民健康保険料は、家計への負担が重いものの一つですが、災害時には救済措置があります。
3. 国民年金保険料の免除
大きな被害を受けた場合、年金保険料の支払いを一時的に免除してもらうことも可能です。
4. 自治体独自の「その他の税金」の減
災害の種類や規模によっては、所得税や住民税以外の地方税も減免の対象になることがあります。
対象となる主な税金:個人事業税、固定資産税・都市計画税、自動車税、不動産取得税など。
▶注意点:これらは「申請」が基本です
雑損控除の手続き(確定申告)をすれば、住民税の控除はある程度連動して計算されますが、「保険料の減免」や「固定資産税の減免」などは、別途自治体の窓口で申請が必要になることがほとんどです。被害に遭われた際は、確定申告だけでなく、お住まいの市区町村の窓口で必ず確認するようにしてください。
まとめ
雑損控除、 「よくわからないから」と放置せず、まずは領収書や証明書をかき集めることから始めましょう。判断に迷ったら、税務署や税理士さんに相談してみてください。
※本記事は2026年1月時点の法令・制度に基づいて執筆しています。内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の事情に応じた法的助言を行うものではありません。万が一、記事の内容をもとに行動された結果として損害などが生じた場合でも、筆者としては責任を負いかねますこと、あらかじめご了承ください。

