第1回:税込経理、税抜経理について

消費税 経理方法 税抜 税込 質問BOX

質問:税込経理と税抜経理、どっちが良いの?

  会社の経理について、これまでは税込経理を行ってきました。
  開業当初、あまり考えずに会計ソフトの設定をして、そのままでした。
  そもそも、税込経理と税抜経理の二つがあることも知りませんでした。
  税込経理と税抜経理、どっちが良いのでしょうか?
  税込から税抜に変更することはできるのですか?

答え:何をメリットと考えるかで選びましょう(変更もできます)

  消費税の経理についての質問です。
  まず、経理方法を変更できるかどうかについての答えは、『変更できます』
  どちらの方法を選んでも、消費税の納税額は変わりません。
   ・経理の手間
   ・利益や納税の予測が立てやすいか
   ・法人税法や所得税法上の判定での有利不利
  といったあたりに違いがあります。

経理の手間について

経理の簡単さでは、税込経理が有利ですが、
会計ソフトを使うことが一般的になった今は、その差はあまりないとも言えます。
とはいえ領収書や請求書の金額をそのまま仕訳すればよいというシンプルさは、
やはり税込経理ならではです。

税込経理はその名の通り、『消費税も込み込みで処理する』方法です。
売上100万円、消費税10万円なら、消費税も含めて110万円で売上に記帳する。
経費も同じで、込み込みで記帳します。
そして納付する消費税は経費扱いになります。
シンプルです。

一方、税抜経理は『本体と消費税は別々に管理(把握)する』方法です。
売上として計上するのは本体の100万円。
消費税10万円は『仮受消費税』という別の科目で管理
します。
経費を支払った時の消費税は『仮払消費税』です。

 仮受消費税:売上げたときにお客さんから預かった消費税
 仮払消費税:支払ったときに立て替えた消費税

決算の時に、この2つを相殺して差額を納付します。
納付額は租税公課という経費勘定にはなりません

利益や納税の予測のたてやすさ

税抜経理の最大のメリットは『実際の儲けが見えやすい』ことです。
例えば、売上が税込110万円、仕入が税込55万円の場合。
税込経理だと、

 110万円-55万円=55万円の儲け

と見えますが、実際には
預った消費税10万円から立替た消費税5万円を引いた5万円を納めるので、

 110万円-55万円-5万円=50万円の儲け

なのです。
これが税抜経理をすると、売上100万、仕入50万で処理するので、

 100万円-50万円=50万円の儲け

とすぐにわかります。
税抜経理の方が、本当の経営成績や期末の消費税額の予測を立てやすいのです。

税法上の金額判定

税法上の判定では、税抜経理の方が有利になるケースが多いです。

例えば交際費。
法人税法上、中小企業は年間800万円まで経費にできます。

 税抜経理:税抜価格で判定⇒税抜800万円まで使える
 税込経理:税込価格で判定⇒税抜730万円くらいまでしか使えない

資産の一括償却の特例。
法人税法上、単価30万円未満の備品などの資産は、一括で経費にできます。
これは青色申告の特典です。で、これを税抜と税込でそれぞれ判定すると、

 税抜経理:税抜価格で判定⇒税抜30万円未満はOK
 税込経理:税込価格で判定⇒税込30万円未満はOK

この計算でいくと、税抜29万8千円(税込32万7800円)のパソコン
税抜経理なら30万円未満なので一括で経費にできて
税込経理だと30万円以上になるのでそれができません(耐用年数で分けて経費にする)。

ただし、同じ法人税法上の判定でも、
特別償却や特別控除の判定では税込経理が有利となる場合もあります。

どっちが良いの?

税込経理しか選べない
 消費税の免税事業者です。
 免税事業者はそもそも消費税を分ける必要がないので、税込経理のみとなります。

税込経理の方が良い
 ・会計ソフトを使わず、手書きで経理をしている事業者
 ⇒取引ひとつひとつを、毎回本体と消費税にわけで帳簿をつけるのは手間がかかります。

 ・簡易課税を選んでいる事業者
 ⇒簡易課税は、売上消費税の何パーセントを納める、という計算方法です。
  実際に受け取った消費税と、支払った消費税の差額を納める計算とは違うので、
  その実際額を把握する必要がありません。

税抜経理の方が良い
 ・建設業
 ⇒公共工事の入札や経営審査の書類は税抜の数字を使うので、税抜経理を行った方が良いです。

 ・会計ソフトを使っている
 ・利益や納税額を適宜把握したい事業者
 ⇒まず、会計ソフトの設定を税抜にすれば自動的に税抜処理をしてくれます。
  経理の煩雑さというデメリットはほぼありません。
  そして最初に述べたように、税抜経理は期中でも実際の儲けや納税額の予測ができます。
  黒字だと思っていたのに、決算になってふたを開けてみたら利益が出ていなかった!
  ということもありません。
  
 
 税抜経理にデメリットがまったくないわけではありませんが、
 総合的に考えると、税抜の方が事業者にとってプラスが多いと言えます。

実務よもや話

「税抜経理をお勧めします」

と書きながら、実際はどうだったのか?
独立開業前に勤めていた税理士事務所のお客様の大半は税込経理でした。
事務所としても、税抜を推奨するということがありませんでした。

言ってること(理屈)と実際が違います。

なぜなのか。
実は勤めていた時は、それほど深く考えていませんでした。
郷に入っては郷に従え、ではないですが、そういうものだと思っていたのです。

振り返って思うこと。

会計ソフトが自動的にやってくれる、とはいえ、
やはり税込経理の方が圧倒的にわかりやすく、シンプルです。
取引金額(実際に受け取る、払う、請求書などに書かれている金額)をそのまま使うからです。
消費税がかかっている取引なのか、消費税のかかっていない取引なのか、
税込経理ならそれを厳密に判断する必要もありません(期中の記帳の際には)。

税理士事務所が入力代行をするにしても、
事業者が自分で入力するにしても、
税抜経理の方が確認事項が多くなります。

インボイスが導入されて変わりましたが、分かりずらい取引もあるので。

そして、税抜経理が利益や納税予測をタイムリーに行える経理方法であっても
日々の経理や月次の締めが遅れてしまう場合……
そのメリットもあまり意味がないです。
そもそも、経理から経営判断をすること(そのサービス)を求めていない、ということも。

それは、税理士である自分の情報提供不足もあったなと今は感じます。
どちらを選択するかはお客様の判断なので押し付けるのは✕ですが、
こういうメリットがあります、こういうことが数字から見えます、と伝えることが大事だなと。

理屈ではなく、事業者の意向や実情に合った方法を提案する。
事業者の実情が妨げとなっているならば、それを取り除けるようにサポートする。

税理士として選択肢を広げられるお手伝いをしていきます。

質問コーナーつきましては、「わかりやすさ」を第一に考え、次のことを心がけております。

専門用語をなるべく使わない
 ➡正しいけれど意味のわかりにくい言葉(税法用語など)を使わず、簡単な表現に言い換えてお伝  
  えします。そのため、専門家による専門家のための実務書とは表現が違うこともままあります
  
“超”がつくほど例外的なパターンまではあえて言及しない
 ➡あらゆるパターンを網羅してお答えしようとすると、回答が膨大な量になる恐れがあります。
  情報の多さに「で、結局答えは??」とゴールが見えなくなってしまわぬよう、まずは基本的なこと
  をシンプルにお伝えします。

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